1 遺留分の仕組みの変更
これまで遺留分を侵害されたとする者が、遺留分減殺請求権を行使すると、形成権=物権的効力が生じ、相続人間で共有状態になり、その後のトラブルの元となってしまうケースもありました。
例えば、後継者である長男に会社の株式を全て渡したとしても、他の相続人の遺留分減殺請求権の行使によって株式が共有となり、経営上の支障が生じるケースがありました。
そこで、改正法では、遺留分減殺請求を行使した場合の効果について、その侵害している金額に相当する金銭の請求権という形に変更されました(改正法1046条)。
また、遺留分減殺請求の対象も変更されました。
これまで、被相続人から相続人に対してされた生前の贈与は、期間制限なく無限定に遺留分減殺請求の対象となっていましたが、今後は、相続人以外に対する贈与は、相続開始前の1年間にされたものに限定されるとともに、相続人に対する贈与についても、相続開始前の10年間にされたものに限り算入されることとなりました(新1044条)。
今後、遺留分がお金の問題のみになると、株式や不動産の共有という問題を生じなくなることから、紛争の予防につながるのではないかと思われます。
2 相続人以外の寄与
現行法では、子の配偶者の寄与は法律上保障の対象外ですが、今回の改正により、一定の要件のもと、被相続人の親族が「特別寄与料」を請求できることになりました(改正法1050条)。
これまで、実務上は、子の寄与として考慮するなどして対応せざるを得ませんでしたが、今後は、正面から子の配偶者の寄与を考慮することができるようになります。
3 遺言の仕組みの変更
民法とは別の法律(「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)も関係しますが、今回の相続法改正において、遺言の仕組みが変更されました。
(1)要式性の緩和
具体的には、これまで全文が自筆であった遺言について、財産の目録部分は自筆でなくても良いと要式が緩和されました。
これにより、例えば、不動産の数が多かったり、預金口座が複数あったりなど、全部自筆で書くのが大変な場合、一定の要件の下、財産目録だけをワープロやパソコン等で作成することができるようになります。
(2)法務局での預かり制度の創設
今回の法改正の中で、自筆証書遺言を法務局で預かってくれるサービスが創設されました。
この仕組の実務的な部分については今後の検討を待つことになりますが、自筆証書遺言がなくなる、という事態を防げる有用な仕組みではないかと思っています。
もっとも、法務局は形式的な確認は行いますが、内容の確認はしないことから、内容に不備があれば、遺言が無効になってしまうおそれがある点は注意が必要です。
なお、報道によると、費用については調整中ですが、数千円程度が見込まれているようです。
(3)今後の見込み
今後、自筆証書遺言の活用がどうなるか、公正証書遺言との使い分けがどうなるか、など、引き続き注意していきたいと思います。
また、遺言者の死後、自筆証書の存在が、相続人に連絡される仕組みも今後整備する方向で検討される見込みです。
■相続関係コラム 民法(相続関係)改正法のポイント一覧 (2018年07月18更新)
民法(相続関係)改正法案が可決、成立しました
民法(相続関係)改正法のポイント(1)「配偶者居住権・配偶者の保護」
民法(相続関係)改正法のポイント(2)「仮払い制度の新設」
民法(相続関係)改正法のポイント(4)「その他の改正点とまとめ」
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