相続関係コラム(21) 民法(相続関係)改正法のポイント(1)「配偶者居住権・配偶者の保護」

1 配偶者居住権の概要

配偶者居住権を新設した拝啓

 これまでのルールによると、父、母、長男という家庭において、父母が住んでいる実家があった場合、父に相続が発生したとき、長男に遺言で実家を相続させると、その後、母が住み続けることができなくなるリスクがあるとして、後継ぎである子に財産を先に渡すことがスムーズにできないとされていました。(※図1参照)
 
 そこで、遺産分割までの間は無償で住み続けることができる権利(短期配偶者居住権)とともに、配偶者が亡くなるまで住み続けられるように長期の権利(配偶者居住権)を新設しました。
 権利の性質について、前者は使用貸借のようなもの、後者は賃貸借のようなものと考えられています。

(1)短期配偶者居住権とは

 短期配偶者居住権は、遺産分割協議が終わるまでの間の配偶者の暫定的な居住を確保するための権利とされており、「無償」での利用権となっています。
また、この権利は、被相続人の意思にかかわらず、生存配偶者に当然に認められるものとされています。
 この権利が発生する要件は次のとおりです(改正法1037条参照)
①被相続人の財産に属していた建物に
②相続開始時に無償で居住していたこと

 この権利は、遺産分割までの間の暫定的な権利であるため、一定の期間に限り認められるものとなっています。

(2)配偶者居住権とは

 これに対し、配偶者居住権は、配偶者の終身の間、存続する権利とされています(改正法1030条)。
 配偶者居住権の要件は次のとおりです(改正法1028条)。
①被相続人の財産に属した建物に
②相続開始時に居住していること
③遺産分割や遺贈等により配偶者が配偶者居住権を取得することになっていたこと

 この配偶者居住権は、登記をすることができることとなっており(しかも、義務となっている)(改正法1031条)、今後は、この登記がされる不動産も増えてくるかもしれません。

(3)まとめ

 今後、配偶者居住権に関しては、不動産の流通等との関係で様々な問題が起きるのではないかと懸念されています。しかし、残された配偶者の生活の安定を確保し、各人が利用しやすいよう運用方法が確立されれば良いと思います。

2 持ち戻し免除の意思の推認(遺産分割における配偶者の優遇)

 今の法律では、配偶者に財産を渡した場合、それは特別受益にあたることから、持ち戻しの対象になります。
 持戻し、というのは相続が発生したときに、生前に贈与された財産などを計算上、一旦相続財産に戻したうえで、法律の規定に基づいて分割をすることを言います。
 例えば、生前に「この財産は配偶者に渡したい」として渡したとしても、それは遺産分割等をする際には、「一旦その分を戻したうえで、分割しましょう」ということになるので、実際に遺産分割等をした際に、配偶者がもらえる財産が減ってしまうということが起こり得ました。
 今回の法改正において、一定の要件を満たした場合には、持ち戻し免除の意思を推認する規定を設けることにより、この不具合を解消するような仕組みと整えました。

■相続関係コラム 民法(相続関係)改正法のポイント一覧 (2018年07月18更新)
民法(相続関係)改正法案が可決、成立しました
民法(相続関係)改正法のポイント(2)「仮払い制度の新設」
民法(相続関係)改正法のポイント(3)「遺留分・寄与分、遺言の仕組みの変更点」
民法(相続関係)改正法のポイント(4)「その他の改正点とまとめ」

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