これまでも何度かコラムに書かせていただいておりました相続法の改正について、平成30年7月6日に、民法改正法案が可決成立しました。今日はその成立した内容をもとにコラムを書きます。全体が長くなりますので、いくつかに分けます。
(過去のコラム)
2018年02月14日 相続関係コラム⑰~民法(相続法)の改正の動きについて~
2018年03月16日 相続関係コラム⑱~民法(相続法)の改正の動きについて(その2)~
民法(相続関係)改正案の概要
今回の相続法改正は、非常に多岐にわたるものとなっています。
(1)参議院の議員要旨
参議院の議案要旨には、次のようにまとめられています。
※家事事件手続法は除く。
本法律案は、高齢化の進展等の社会経済情勢の変化に鑑み、相続が開始した場合における配偶者の居住の権利及び遺産分割前における預貯金債権の行使に関する規定の新設、自筆証書遺言の方式の緩和、遺留分の減殺請求権の金銭債権化等を行おうとするものであり、その主な内容は次のとおりである。
一 民法の一部改正
1 配偶者が、終身又は一定期間、無償で被相続人の財産に属した建物の使用及び収益をすることができる権利(配偶者居住権)を創設し、遺産分割又は遺贈により、これを取得することができることとする。
2 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、一定額については、他の共同相続人の同意を得ることなく、単独で払戻しをすることができる。
3 自筆証書遺言の要件を緩和し、自筆証書に相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については自書することを要しないこととする。
4 遺留分を侵害された者の権利の行使によって遺贈又は贈与の全部又は一部が当然に失効するとされている現行法の規律を見直し、遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずることとする。
5 被相続人の親族で相続人以外の者が、被相続人の療養看護等を無償でしたことにより被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をした場合には、相続の開始後、相続人に対して金銭の支払を請求することができる。
民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案(閣法第五八号)(衆議院送付)要旨より引用
(2)改正のポイント
上記の内容のポイントを整理すると、今回の改正の主なものとしては、次の5つです。
一つ目は「配偶者の居住権を確保するための方策」として、配偶者居住権(短期配偶者居住権、配偶者居住権)を新設しました。
二つ目は、相続人全員の同意がない場合であっても、特定の相続人による一定額の払い戻しを金融機関に求めることができる仮払い制度を新設しました。
三つ目は、自筆証書遺言の方式を緩和しました。なお、これに伴い、法務局における遺言書の保管制度も新設しました(前者の方式の緩和は民法の改正で対応。後者については、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」という新しい法律が制定されました)。
四つ目は、遺留分のルールが変更され、従来のような物権的な効力を否定しました。
五つ目は、これまで特別受益の対象とならなかった子の配偶者などについて、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をした場合に、その者に一定の金銭の支払を請求する仕組みを新設しました。
その他の大きな改正点としては、遺産分割における配偶者の保護を図るため、①被相続人が配偶者に遺贈等したときは、その遺贈等について被相続人が相続財産への当該財産の持ち戻し免除の意思表示をした、と推定する規定を新設したり、②遺産における一部分割の規定を新設したりしています(これらはまた別の回に取り上げます)。
以下では、少しそれらの内容を数回に分けて説明をさせていただきます。
■相続関係コラム 民法(相続関係)改正法のポイント一覧 (2018年07月18更新)
民法(相続関係)改正法のポイント(1)「配偶者居住権・配偶者の保護」
民法(相続関係)改正法のポイント(2)「仮払い制度の新設」
民法(相続関係)改正法のポイント(3)「遺留分・寄与分、遺言の仕組みの変更点」
民法(相続関係)改正法のポイント(4)「その他の改正点とまとめ」
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