相続関係コラム⑰~民法(相続法)の改正の動きについて~

 皆様もニュースや新聞などで見聞きされているかもしれませんが、現在、国の法制審議会で民法(相続法)の見直しが検討されています。
 ちょうど、民法(債権法)の改正が昨年5月に成立しましたが、民法(相続法)の改正についても、3年にわたり審議されており、今年の3月上旬の通常国会に提出される予定となっています。 この改正案が成立すると、約40年ぶりに相続法は大きく変わることになります。
 今回は、今検討されている民法(相続法)の改正のポイントを見てみたいと思います。

1 遺留分の仕組みの見直し

 現在の民法によれば、遺言がある場合は、遺言に従って遺産を分けることになりますが、法定相続人には最低限の取り分があり、これを「遺留分」といいます。
 遺留分の割合は、法定相続人の数や組み合わせで違いますが、多くは法定相続分の半分です。
 しかし、遺言の中には、この遺留分を考慮せずに作成されたものが少なからず存在しており、これが争いの種になることも少なくありません。
 例えば、被相続人(亡くなった人・遺産自宅(3,000万円)のみ)が、遺言に「長男に3,000万円相当の自宅を相続させる」と書いていたとします。被相続人には、他に相続人として次男がいる場合、次男には遺産のうち4分の1(750万円)の遺留分がありますので、長男に対し、不足している750万円を払えと要求(これを「遺留分減殺請求」といいます)してくるなどして争いになる可能性があります。
 現在の民法では、この遺留分減殺請求権を行使すると、遺留分を侵害した部分だけ効力を失わせることになるので、長男が相続した自宅は4分の1だけ次男のものになります。
 この点について、改正案では、遺留分を侵害する金額だけを現金で払うことができるような仕組みになる見込みです。
 上記の例だと、自宅の4分の1分を渡すと考えるのではなく、遺留分を侵害する金額750万円を次男に払うという形になる見込みです。
 このような解決の仕方は、これまでの調停などの場でも採用されていたところですが、今回の改正で権利が明確になれば、上記のような問題がスムーズに解決されるのではと期待されているところです。

2 預貯金の取り扱いに関する見直し

 今の民法では、遺言がない場合、遺産は法定相続人の共有となり、遺産の分け方を相続人全員で話し合わなければなりません(これを「遺産分割協議」といいます)。
 預貯金も遺産分割協議の対象なので、葬儀費用などすぐに必要なお金があっても、遺産分割協議が整わないとお金が引き出せないという問題があります。
 ※相続関係コラム②
 そこで、今回の改正で仮払いの制度を新設することを検討しています。
 この仮払いの制度は、条件を満たすと、単独で一定額の預金を引き出すことができるようになる仕組みで、金額は相続人1人当たり「預金額の3分の1×法定相続分」とする方向で検討されています。
 また、一部分割という仕組みの取り入れも検討されています。
 共同相続人全員の合意があれば、一部の引き出しが可能になるというものです。
 現在でも金融機関において、一部の引き出しを認められているところですが、それを明文で規定しようとしています。

3 遺言

(1)自筆証書遺言の見直し
 遺言には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類の遺言があります。
 自筆証書遺言とは、遺言者が遺言の全文・日付・氏名を自書し、署名の下に捺印して作成する遺言です。
 ところが、自筆証書遺言は作成の決まりが厳格なため、捺印がなかったり、「吉日」と特定できない日付を記載したりするなどして無効になるケースがあります。
 財産も同様で、例えば「西区の自宅」といった曖昧な記載だと無効になることがありますが、財産目録は不動産がたくさんあると書くことが多くて間違うことも少なくありません。
 この点につき、今回の改正では、自筆証書遺言の要件が緩和され、財産目録の一部を一定の決まりを守れば必ずしも自筆で書かなくてもよいという方向で検討されています。
 例えば、ワープロや表計算ソフトで財産目録を作ることができるようになります。
(2)法務局による保管制度
 また、自筆証書遺言を法務局で保管する制度も新設する予定です。
 申請時に、法務局が遺言の中身が法定のきまりどおりに書かれているかチェックしてくれる体制の導入を検討しています。
 この保管制度を使った場合、現行の制度で必要な家庭裁判所での「検認」の手続きが不要になります。
 今後は、この仕組みの利用と公正証書遺言の利用の使い分けをどうするか、などが議論されていくのかもしれません。

4 その他の改正点

 以上のほか、配偶者が自宅に終身住み続けられる居住権を新設したり、婚姻期間20年以上の夫婦間で自宅を贈与した場合、それを遺産分割の計算から除いたりするなどの決まりが盛り込まれる見通しです。
 また、子どもの配偶者など相続人以外の人が被相続人の介護などで一定の貢献していた場合、その貢献度合いに応じた金額の金銭で請求できるようにすることも盛り込まれる予定です。

5 まとめ

 相続税法の改正や終活が注目を集めている中、今回の民法(相続法)の改正は重要なものとなるでしょう。
 相続争いの防止や争いになった場合に手続きが円滑に進むよう盛り込まれた内容が多いですが、相続でもめないための工夫はこれからも引き続き注意して続けていく必要があるでしょう。

 当事務所では、遺言書の作成をはじめ、相続が争族にならないための相続対策などにとりくんでおります。相続にまつわることで困ったことや悩みごとがあれば、気軽にご連絡ください。

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