相続関係コラム⑬~事業承継税制の見直し(拡充)についてのご紹介~

 これまでは個人の相続のコラムを主に書かせていただいているところですが、今日は会社の相続とでもいう「事業承継」についてコラムを書きます。
 先日の新聞、ニュースで見られた方もいらっしゃるかもしれませんが、国が事業承継税制の見直しの方針を明らかにしました。

1 事業承継をめぐる世の中の状況

 近年、経営者の高齢化が急速に進んだことに加えて、事業を引き継ぐ適当な人がいない後継者不足により、スムーズに事業を承継できず、やむを得ず廃業を選択する会社が増えてきました。
 広島においても、統計数字によると75%の中小企業で後継者がいないという問題を抱えていると言われたりしています。
 このような状況に対応するため、国は2018年税制改正において、中小企業の世代交代を促すため事業承継税制の拡充を行う方針が示されました。

2 事業承継税制

(1)事業承継税制とは
 非上場会社の事業承継においては、自社株の評価が高くなって相続税や贈与税の負担が多くなり、次の経営者への承継がうまくいかないことがあります(「渡したくても渡せない」ことも)。
 その問題を解決するため、平成21年4月より施行されたのが「事業承継税制」といわれるものです。
 現在の事業承継税制では、相続税の場合において、承継する非上場株式の3分の2について80%の相続税を猶予する仕組みを導入して、円滑な承継ができるような仕組みをとっています。
 また、贈与税の場合において、贈与によって後継者が取得した非上場株式のうち、贈与前から所有していた分を含め全体の3分の2までの部分について、全額猶予が認められます。

(2)現行の制度の問題点
 以上のとおり、税負担の軽減を認める事業承継税制ですが、実際は相続税・贈与税の一部を猶予する制度といっても、例えば相続税の場合、相続した株式の税額のうち実質的に53%ほどしか猶予の対象とはならず、その結果、高額な相続税の支払いを免れないことから、なかなか利用しにくいと言われたりしていました。
 また、猶予の仕組みにおいても、5年間で8割の雇用を維持できなければ、全額を納税する必要があり、この点も厳しい条件となっています。

(3)改正の内容
 今回、国は、承継する非上場株式の「全て」について相続税を猶予し、雇用計画の策定などの条件をつけた上で「事業を継続する限り」支払いを猶予できるよう税制改正する方針を示しました。 そして、親族以外の経営者や外部の企業がM&Aにより経営を引き継いだ場合の登録免許税や不動産取得税の軽減なども検討しており、現在は年500件程度にとどまる事業承継税制の適用件数を2000件以上に増やすことを目指しています。
 今回の改正で、実質的に相続税と贈与税の負担がなくなるケースも出てくることが予想されます。
 「使いづらい」といわれている現在の事業承継制度ですが、これから具体的にどのような改正内容になるか注目しておく必要があります。

弁護士法人菊永総合法律事務所 電話082-554-2515 〒730–0012 広島市中区上八丁堀8–26 メープル八丁堀401号

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