1 相続争いについて
「うちは、実家の土地・建物と少しだけの預金しかないから、相続争いは起きない。だから遺言とかはいらない」と思っていらっしゃる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
私も相続関係のご相談を受ける中で、よくこういう話は聞きます。
しかしながら、実際はその逆で、遺産が少ないほうが争いになってしまうのです。
例えば、裁判所が出している「司法統計年報」という統計があるのですが、年度ごとに差はあるものの、遺産分割が争いとなった事案の多くは5000万円以下の財産をめぐるものとなっています。
「うち、5000万円もないから」
そう思った方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、冒頭の例のように、実家の土地と建物をもっていらっしゃったら、それだけで結構な金額になる場合もあります。
さらに、もめごとが多いのは「5000万円以下」なので、財産が100万円とか1000万円とかの場合も含まれます。
つまり、財産が多い人だけが相続争いに巻き込まれる、というわけではないのです。
2 遺産が少ない場合になぜもめることが多いのか。
遺産が少ないとなぜもめごとになるのでしょうか。
その理由はいくつかあります。
まず一つ目は、少ないからこそ妥協がしにくいという点があります。
相続人が2人いる場合で、相続財産が100万円しかない場合を考えてみましょう。
それを半分ずつに分けるとすると50万円ずつになりますが、例えば片方が60万円欲しい、と言い出したらどうでしょうか?
もしその言い分を認めると、60万円と40万円、ということになるので、金額にすると20万円なのですが、もらう金額が1.5倍違うので、「それはちょっと・・・」ということになりやすいです。
他方、相続財産が1億円ある場合はどうかというと、同じように一方が他方より10万円多くもらいたい、とした場合、金額は5010万円と4990万円となります。
これだとほとんど差がないため、譲る側も「それくらいなら・・・」ということになり、話はつきやすいです。
二つ目は、実家の土地・建物しかない場合、分け方が難しいというのがあります。
相続をする人が長男と長女というケースで、財産が実家の土地・建物しかないというケースを想定してみましょう(法定相続分どおり承継するという前提とします)。
実家の土地・建物が1500万円の価値があるとすると、遺言がない場合には半分ずつの750万円ずつが法定相続分になります。
例えば長男が実家を引き継いだ場合、長男は長女に対し、750万円渡さないといけないのですが、相続財産の中に現金がない場合には長男は自らの負担で長女に払わないといけません。
そして、「じゃあ、家を半分ずつにしたらいいじゃないか」ということになりますが、不動産は共有で持つと、色々と問題がありますし、売却してお金にしようにもすぐに売れるとは限らないなどという問題があります。
また、実家を引き継いだ長男からすると「実家を守っていこうとしているのに、お金を要求するなんて・・・」という感情面のもつれを生じさせることがあります。
3 まとめ
このように、遺産が多い場合にも当然色々難しい問題があるのですが、そうでない場合にも難しい問題があります。
もっとも、相続の争いというのは、実家などの財産を持っているお父さまやお母さまがしっかりと遺言を残したり、家族でしっかりと話し合ったうえで資産の承継の仕組みを決める手法である家族信託をすることなどによって、多くの場合にトラブルを予防できます。
当事務所では、トラブルの予防のための様々な相談に対応しておりますので、どうぞお問い合わせください。